本作は日本アカデミー賞6部門をとった作品だそうです。

のっけからケチをつけてしまいますが、そんなに良い作品かな、というのが率直な感想です。
別に悪くはないけど、素晴らしく感動する映画というわけでもありません。

私は原作も読みましたが、映画は原作のダイジェスト版になってしまっているような気がしました。
そもそも原作もストーリーが起伏に富んでいるというわけではなく、映画にしにくい作品だとは思います。

辛口の評価をしてしまいましたが、出演者も旬で実力のある俳優ばかりだし、セットや小道具も手を抜いていないので安っぽい映画にはなっていません。

私の印象に一番残ったのは主人公の下宿の早雲荘です。
ああいう扉のあるアパートは今はもうほとんど見られません。

sounso
昔はよく見た斜めの真ちゅうの取って

大家のお婆ちゃんもなくなり、結婚した二人は出会ってから12年後もその元下宿の早雲荘に住んでいます(少しリフォームはしたみたいですが)。
今の安アパートは建築予算と耐用年数と年間利回りを計算して建てられるので、50年以上ももつような丈夫な作りのアパートは建ちません。

「降る雪や明治は遠くになりにけり」という有名な俳句がありましたが、その言葉を借りれば「昭和は遠くになりにけり」という感慨がありました。

その早雲荘の玄関口で、主人公の馬締(松田龍平)が香具矢(宮崎あおい)に告白をするシーンは秀逸でした。
馬締がついに「好きです」と告白し、その言葉を受けた香具矢が「私も…」と言うまでの間と香具矢の表情…。
ワタシ的には宮崎あおい、助演女優賞決定でした。

sounso genkan
 部屋の扉のひし形の小窓も懐かしい

これからは電子辞書が主流になり、重い紙の辞書は「去りゆく老兵(意味と語源は辞書で調べてね)」となっていくのかもしれません。
しかし、人類が存在する限り言葉はあります。
人が言葉の大海に漕ぎ出る作業はこれからも続くのでしょう。

映画「舟を編む」は完璧な作品ではありませんが、いろいろと考えさせられる佳作でした。

舟を編む
三浦 しをん
光文社
2011-09-17



舟を編む
三浦 しをん
光文社
2014-04-18