私は都内にある整体の学校に2年ほど通っていました。

 学校では通常学生同士がペアになって実技の練習をします。
そして、私は骨盤矯正の実技の練習で、骨盤を歪めてしまいました。

未熟な学生同士の実技ですから、こういうことはたまにあるようです。

 「タチの悪いケガほど後になって出てくる」と言いますが、私はその実技から三日ほどして右腰に鈍痛を感じ始めたのです。
 
私はまず授業を指導した担当の先生に相談に行きました。
「ウチの施術所に来てくれたら…（診てあげる）」
先生は眼鏡の奥の気弱そうな眼をしばたたかせながらそう言いました。
学校には施術用のベッドが何台も何種類もあるのにです。
多分自信がないんだな…。
そう判断した私は少し遠いところにある先生の施術所に行くことはありませんでした。
 
まあ時間が経てばそのうち治るだろう、私はそう楽観的に考えていました。
しかし、その考えは間違っていました。

何年たっても、腰の鈍痛はいっこうに引かず、むしろ悪化しているような気すらしてしていました。

テニスなどをした翌日は腰が痛くてたまらなくなりました。
脱衣所でパンツを履こうとしても片足立ちができません。

私は整体の学校を卒業して治療院で働いていましたが、患者さんの治療をしていると自分の腰痛の方がひどくなってきます。
そんな時は同僚に頼んで簡単な整体をしてもらいましたが、それも効果は一時的なものでした。

骨盤を歪めてから7年経っても私の腰はいっこうに良くなる気配はありませんでした。

とうとう業を煮やした私は骨盤矯正の施術を受けることにしました。

力技によって歪んだ骨盤だから、力技で治すしかないのかもしれない。

毒を以て毒を制す。

追いつめられた私はとうとうそんな結論に至ったのです。

一縷の希望を持って私は某所にある施術院に行きました。

ところがそこでは毒にも薬にもならないような施術しかしてくれませんでした。

私にもいささか心得があるので、何をやっているかぐらいは見当はつきます。

3回目の施術の時、私はなぜ骨盤を矯正する施術をしないのかと院長を厳しく問い詰めました。

私より10歳以上若い院長は私に問い詰められ、とうとう最後には本当の事を話しました。

「（骨盤矯正をすると）悪化する恐れがありますから…」

私は整体の学校にいた時、ある有名な流派の整体に否定的だった先生に質問をしたことがあります。

その先生は鍼灸師でもあり、いわゆる行列のできる治療院を営む人気講師でした。

「＊＊＊（流派の名前）の骨盤矯正についてどう思われますか」

という私の質問に対し、

「人間の体はダイヤル仕掛けじゃないから、カチッとやれば元に戻るというものじゃない」

といった趣旨の答えをされました。

考えてみれば、私もそれまで人間の体を簡単に考えていたような気がします。

パキポキとやれば、もとに戻るというイメージは素人考えの浅はかさなのです。

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