この映画は小さいお家とタキ(黒木華)で、ピタッと世界ができあがった感じがします。

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赤い三角屋根のモダンな文化住宅。
20世紀までは、洋風の意匠を取り入れた古い戸建て住宅があちこちにあったような気がします。

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デザイナーズ戸建てなので、窓や扉が妙に凝っていたりして、個性がありました。
今の戸建てはコスト重視の大量生産方式なので、機能的なのでしょうがどれもこれも同じようです。

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 杉並区阿佐ヶ谷 「Aさんの庭」
 
タキ役の黒木華は着物と割烹着が異様に似合います。
今の若い子にはなかなかない”清らかな色気”があります。
50代以上のお父さんが大好きなタイプです。
和装の彼女が赤い屋根のお家で家事をしているだけで、ノスタルジー度が100を振り切ります。

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彼女はこの映画で外国の映画祭の優秀女優賞を受賞したそうですが、外人のオヤジにも彼女の良さがわかるのですね。
そういえば、作中の会話で「ヒジキと油揚げ」という言葉が出てきましたが、翻訳ではどうなったんでしょうか。

このお話の舞台は戦前の昭和なので、もちろん私も生まれていませんが、どういうわけかいたるところに懐かしさを覚えてしまいます。

電話がまださほど普及していない頃のお話なので、いちいち先方の家を訪ねていく。
ちょっとした話でも、ハガキや手紙で応答する。
親せき筋とのつき合いが深くいろいろと干渉される。
戦後からかなりたった昭和でも、こういう名残りはまだあったような気がします。

それから、嵐の夜の”緊急事態感”。
今は台風が直撃しても特に何もしませんが、昔は「サザエさん」なんかを見ると台風襲来前には必ず警戒態勢に入ったようです。
窓に板を打ち付けたり、停電に備えてロウソクを出したり、食事は缶詰ですませたり…。

この映画では嵐の夜の緊急事態が、逆に抑えていた男女の心に火をつけてしまう結果になります。
時子(松たか子)が板倉(吉岡秀隆)に”接吻”をした時、見ていた私は思わず「あ~あ~」というため息にも似た声が漏れてしまいました。
不倫とか、ドロドロした恋愛とか、たとえフィクションでも私は好きではありません。

平凡で善良で美しい人妻のうちに潜む魔性。
この世で一番見たくないものです。

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この映画の恋愛模様については解釈が分かれるかもしれませんが、私はタキは板倉に対して密かに好意を寄せていたと思います。
時子が板倉に会いに行くのをタキが止めた時、それは二人に起こるであろう危機を回避することが動機だったと思います。
しかし、タキは板倉に思いを寄せていたからこそ、自分のこの行動を後々まで苦悩することになったのでしょう。
あれはほんとうに二人のためにしたことなのか、と…。

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作品全体に漂う雰囲気がとても良い映画でしたが、板倉正治を演じる吉岡秀隆は二人の女性に思いを寄せられる男性としてはちょっと色気に欠けるような気がします。
あと、晩年の恭一(米倉斉加年)ですが、米倉氏は撮影当時、78、9歳、晩年のタキを演じる倍賞千恵子は71歳ぐらいのはずです。
恭一は少なくとも10歳くらいタキより若いのに、演者の実年齢が逆転してしまっています。

そのあたりはちょっと気になりました。

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