わが国におけるアウトドア系文学の巨匠といえば、やはり開高健先生でしょう。

開高先生には「オーパ」というアマゾン川釣り紀行の名エッセーがあります。
この著書では街灯を串にして牛を一頭丸焼きにするという、豪快なアウトドア・クッキングが登場しますが、(1)と(2)で洋物を取り上げたので、この回では和のアウトドア料理をご紹介したいと思います。

以下、開高健著、「最後の晩餐」からの抜粋です。

釣ったばかりのカツオよりは少し時間をおいたほうがうまくなる。漁師は錆包丁一本で肉をザクザクと切り、醤油と酢を入れた鍋に放り込んでしばらくほっておく。そのうちカツオの血と脂が醤油ににじみでてギラギラの輪が光るようになる。これを炊きたての御飯にのせてハフハフといいつつ頬張るのである。つまりは”ズケ”寿司の原型みたいなもので、コツも秘伝もないが、海上はるかのその現場でなくてはならぬという最大、最深の前提がある。こうして裸虫になって潮風と日光の中でむさぼり食べるカツオは肉がむっちりと餅のように歯ごたえがあって目を瞠りたくなるのである。

これは漁師さんの賄い料理になるのかもしれませんが、大海原から引き抜いたカツオをその場でさばいて船の上で食べているわけですから、立派なアウトドア料理の一つです。

もし生まれ変わることができるなら、来世私は漁師になりたいです。
漁師になって、船上でこのワイルドな賄いを熱い飯といっしょにかっこみたい。
そして漁を終えて港に帰ったら、漁協前の堤防で獲った魚や貝を焼きながら仲間と酒を酌み交わしてバカ話に花を咲かせます。

都会の生活にちょっと疲れている男は、たいていそんな生活に憧れてしまうのです。

bbq
今日はタニやんが潜りでイセエビを捕ってきた…などとブログに書いてみたい

ところで、最後に私が経験した究極のアウトドア料理をご紹介します。

19歳の夏、南アルプスの標高3000メートル近い尾根でキャンプをした翌朝のことです。
起きてすぐ小さなヤカンに正真正銘の南アルプス天然水を入れ、シングルバーナーの火をつけます、
ヤカンの湯が沸騰したらティーバッグを投入、ナイフでレモンを厚めに切ります。
マグカップに熱い紅茶を注ぎ、レモンスライスと砂糖を多めに投入。
朝日で赤く染まった雲海を眼下に望みながら飲んだレモンティーの味は一生忘れません。

また山に行きたいけど、もうあんな体力ないなぁ。

unkai
 木曽駒ヶ岳から見た南アルプス