私は卒業旅行を2回しています。
しかも、両方とも私の卒業旅行ではありませんでした。
私は大学受験で一浪したので、先に大学を卒業する友人たちの卒業旅行に付き合ったのです。
一つ目は中学時代からの友人、T君の卒業旅行でした。
彼の愛車白いコスモに乗って、延々と北を目指す旅。
早春の東北、宿も決めない行き当たりばったりの自動車旅行でした。

マツダ・コスモ 旅行中、橋の欄干にぶつけてT君に激ギレされたのも今は良い思い出
この時の記憶は、断片的に、スライド・ショーのようによみがえります。
初めて目にした鉄鋼の町、釜石市の風景がセピア色だったこと。
龍泉洞という鍾乳洞のチケット売り場のお姉さんが妙に艶めかしかったこと。
浄土ヶ浜の海が静かでとてもきれいだったこと。
仙台市内でT君がOLさんを危うく轢きそうになったこと。
印象に残ったことは鮮明に覚えているのですが、点と点を繋ぐ線がまるでありません。
例えば、龍泉洞に行ったのは確かなのですが、どんなところだったのかはまったく覚えていません。
こうしてみると、人生はほんとうに夢のようです。
T君とは2、3年前に軽井沢に行きました。
彼とは大学卒業以来2度目の旅行です。
T君は離婚して独身(その後再婚)、私もずいぶん前に奥さんと死別して独身です。
彼ご自慢のフォルクスワーゲン・カブリオレに乗せてもらい、道端を歩く女性の品定めを二人でしていました。
50過ぎてもやっていることは昔と同じです。

オープンカーのビートル 女性にモテたい気がアリアリの車
二つ目の卒業旅行は、大学の親友N君とでした。
二人で石川県の金沢に行ったのですが、覚えている思い出は一つだけです。
N君のお父さんは政府系の金融機関に勤めていたのですが、N君が金沢に旅行に行くと聞いて、金沢支店の元部下に連絡して街を案内してもらうよう取り計らってくれました。
お父さんは、無事都市銀行に就職も内定した一人息子の卒業旅行に何かしてやりたかったのだと思います。
金沢旅行の二日目の土曜日、お父さんの元部下さんに街の案内を頼むため、N君は一人で某金融公庫の金沢支店に行きました。
私とは待ち合わせ場所を決めて、落ちあうことになりました。
きっと案内付きの車で私を拾いに来るのだろうと予想していたのですが、約束の時間になってもN君は姿を見せませんでした。
どうしたのだろう…。
やきもきしているうちに、ようやく待ち合わせ時刻を30分ほど過ぎてからN君がぽつりと一人で姿を現しました。
「どうしたんだよ}
「…うん」
「案内の人は?」
「…それなんだけど、ちょっと手違いがあったみたいで…」
申し訳ないと思っているのか、重たい口ぶりでしたが、彼がぽつぽつと話す事情を聴いてようやく合点がいきました。
彼が支店に行くと、部屋に通され一人の男性が応対してくれたそうです。
その人は何やら書類を携えていて、その書類を見ながら、「アラガキさんですか」と尋ねたそうです。
彼の名字は新垣で、ほんとうはニイガキと読むのですが、アラガキと読む人の方が多いのでその場では特に否定せず彼は「ええ」と答えました。
「今年金融機関に就職される…?」
このあたりからN君も少し妙だとは感じたそうですが、まさしく彼は都市銀行に今年就職する身です。
「はい」と答えるしかありません。
ここから二人の会話が進んだのですが、どうも話がかみ合いません。
しばらくして、双方とも自分が想定している自分とは違う人間が目の前にいることに気づいたそうです。
そして、事の真相がわかりました。
実はその支店ではたまたまN君と同じ姓の新垣君を採用することが内定していて、先方はてっきりそのアラガキ君が支店を訪ねてきたと思い込んでいたのです。
内定が決まっているはずのアラガキ君が中途半端な時期に支店に来たので、支店の人は内定を断りに来たと思ったのかもしれません。
だから、「金融機関に就職される?」などという持って回った言い方をしたのでしょう。
事情が分かった相手は平謝りに謝って、すぐに案内の車を手配させると言ってくれたらしいのですが、決まりが悪くなったN君はそれを断って逃げるようにして支店を後にしたそうです。
「なんだよ、せっかく案内してくれると言ってくれたのに」
私は文句を言いながらも、しばらくの間大笑いさせてもらいました。
人が少ない休日の土曜に世間知らずの学生がアポを取ったので、このようなアンジャッシュのコントのような展開が起きたのだと思います。
前述したしっかり者のT君と違い、N君はスイッチを切ってオフの状態になると恐ろしくぼんやりしています。
N君とはその後何度も旅行に行きましたが、笑い話には事欠きません。

バブル期のちょっと前に買ったN君の愛車 RX7
しかも、両方とも私の卒業旅行ではありませんでした。
私は大学受験で一浪したので、先に大学を卒業する友人たちの卒業旅行に付き合ったのです。
一つ目は中学時代からの友人、T君の卒業旅行でした。
彼の愛車白いコスモに乗って、延々と北を目指す旅。
早春の東北、宿も決めない行き当たりばったりの自動車旅行でした。

マツダ・コスモ 旅行中、橋の欄干にぶつけてT君に激ギレされたのも今は良い思い出
この時の記憶は、断片的に、スライド・ショーのようによみがえります。
初めて目にした鉄鋼の町、釜石市の風景がセピア色だったこと。
龍泉洞という鍾乳洞のチケット売り場のお姉さんが妙に艶めかしかったこと。
浄土ヶ浜の海が静かでとてもきれいだったこと。
仙台市内でT君がOLさんを危うく轢きそうになったこと。
印象に残ったことは鮮明に覚えているのですが、点と点を繋ぐ線がまるでありません。
例えば、龍泉洞に行ったのは確かなのですが、どんなところだったのかはまったく覚えていません。
こうしてみると、人生はほんとうに夢のようです。
T君とは2、3年前に軽井沢に行きました。
彼とは大学卒業以来2度目の旅行です。
T君は離婚して独身(その後再婚)、私もずいぶん前に奥さんと死別して独身です。
彼ご自慢のフォルクスワーゲン・カブリオレに乗せてもらい、道端を歩く女性の品定めを二人でしていました。
50過ぎてもやっていることは昔と同じです。

オープンカーのビートル 女性にモテたい気がアリアリの車
二つ目の卒業旅行は、大学の親友N君とでした。
二人で石川県の金沢に行ったのですが、覚えている思い出は一つだけです。
N君のお父さんは政府系の金融機関に勤めていたのですが、N君が金沢に旅行に行くと聞いて、金沢支店の元部下に連絡して街を案内してもらうよう取り計らってくれました。
お父さんは、無事都市銀行に就職も内定した一人息子の卒業旅行に何かしてやりたかったのだと思います。
金沢旅行の二日目の土曜日、お父さんの元部下さんに街の案内を頼むため、N君は一人で某金融公庫の金沢支店に行きました。
私とは待ち合わせ場所を決めて、落ちあうことになりました。
きっと案内付きの車で私を拾いに来るのだろうと予想していたのですが、約束の時間になってもN君は姿を見せませんでした。
どうしたのだろう…。
やきもきしているうちに、ようやく待ち合わせ時刻を30分ほど過ぎてからN君がぽつりと一人で姿を現しました。
「どうしたんだよ}
「…うん」
「案内の人は?」
「…それなんだけど、ちょっと手違いがあったみたいで…」
申し訳ないと思っているのか、重たい口ぶりでしたが、彼がぽつぽつと話す事情を聴いてようやく合点がいきました。
彼が支店に行くと、部屋に通され一人の男性が応対してくれたそうです。
その人は何やら書類を携えていて、その書類を見ながら、「アラガキさんですか」と尋ねたそうです。
彼の名字は新垣で、ほんとうはニイガキと読むのですが、アラガキと読む人の方が多いのでその場では特に否定せず彼は「ええ」と答えました。
「今年金融機関に就職される…?」
このあたりからN君も少し妙だとは感じたそうですが、まさしく彼は都市銀行に今年就職する身です。
「はい」と答えるしかありません。
ここから二人の会話が進んだのですが、どうも話がかみ合いません。
しばらくして、双方とも自分が想定している自分とは違う人間が目の前にいることに気づいたそうです。
そして、事の真相がわかりました。
実はその支店ではたまたまN君と同じ姓の新垣君を採用することが内定していて、先方はてっきりそのアラガキ君が支店を訪ねてきたと思い込んでいたのです。
内定が決まっているはずのアラガキ君が中途半端な時期に支店に来たので、支店の人は内定を断りに来たと思ったのかもしれません。
だから、「金融機関に就職される?」などという持って回った言い方をしたのでしょう。
事情が分かった相手は平謝りに謝って、すぐに案内の車を手配させると言ってくれたらしいのですが、決まりが悪くなったN君はそれを断って逃げるようにして支店を後にしたそうです。
「なんだよ、せっかく案内してくれると言ってくれたのに」
私は文句を言いながらも、しばらくの間大笑いさせてもらいました。
人が少ない休日の土曜に世間知らずの学生がアポを取ったので、このようなアンジャッシュのコントのような展開が起きたのだと思います。
前述したしっかり者のT君と違い、N君はスイッチを切ってオフの状態になると恐ろしくぼんやりしています。
N君とはその後何度も旅行に行きましたが、笑い話には事欠きません。

バブル期のちょっと前に買ったN君の愛車 RX7